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事例7 min read2026-04-04

コンサルティング会社がAIエージェントで変えた提案書作成から分析業務までの全容

データ収集・分析・スライド生成をAIエージェントが担い、コンサルタントがより高度な思考と顧客対話に集中できる環境を構築した戦略コンサル事務所の事例。

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AgenticWorkerz編集部
AI × Work Research

「深夜のPowerPoint地獄」は、コンサルの宿命なのか

戦略コンサルティングというと、華やかなイメージを持つ人も多いだろう。大企業の経営課題に向き合い、データを武器に解決策を提案し、クライアントの変革を後押しする——そんな知的な仕事の像だ。しかし実際に業界に入った人間から聞く話は、少し違う。「深夜1時まで競合他社の有価証券報告書を読み込んでいる」「土日をつぶしてPowerPointのスライドを磨き続けている」「クライアントへの提案書の締め切り前夜は徹夜が当たり前」——こういった声が、戦略コンサルの現場には溢れている。

正直に言うと、コンサルタントの仕事の中には「コンサルタントでなくてもできる部分」が大量に含まれている。競合他社の公開情報を収集・整理する作業、データをExcelで集計してグラフにする作業、会議の議事録をとってまとめる作業——これらは「データを使って何を考えるか」という本質的な知的作業ではなく、「データを準備する」という前処理だ。しかしそれに多くの時間が奪われている。若手コンサルタントの離職率が高い背景には「入社前に想像していた仕事と、実際にやっていることが違う」という失望が少なくない。

東京の独立系戦略コンサルティング会社T社(コンサルタント30名)は、2025年からAIエージェントを業務の中核に組み込んだ。データ収集・分析・スライド生成をエージェントに任せ、コンサルタントが本来やるべき「考える仕事」と「クライアントとの対話」に集中できる環境を作るという戦略だ。その取り組みがもたらした変化は、プロジェクトの生産性だけでなく、組織文化にまで及んだ。

「丸1日かけていた競合調査」が2時間になった

T社の情報収集エージェントは、業界レポート・企業の有価証券報告書・競合他社のプレスリリース・市場調査データ・SNSの評判データを継続的に収集・構造化する。新しいプロジェクトが始まると、エージェントが対象業界と競合企業の最新情報を一気に収集し、構造化されたレポートとして出力する。従来ジュニアコンサルタントが丸1日かけていた競合調査が、エージェントにより2時間で完成する。しかも、収集したデータはナレッジベースに蓄積され、過去のプロジェクトの知見と組み合わせて活用できる。「2年前にこの業界のプロジェクトをやったとき、どんな課題があったか」という参照が自動でできる点も大きい。

定量分析エージェントの使い勝手も、現場のコンサルタントから高く評価されている。財務データ・市場データ・アンケートデータのクリーニング、集計、可視化を自動で行う。「この施策を実施した場合の3年後のROI試算」「競合他社との財務ベンチマーキング」といった分析タスクへの指示を自然言語で与えると、エージェントがPythonコードを自動生成して分析を実行し、グラフとともに結果を返す。Pythonを書けなくても、「この変数とこの変数の相関を散布図で見せて」という指示で分析が走る。コンサルタントはデータの解釈と意味付けに集中できるようになり、「データから何が言えるか」という最も価値ある思考に時間を充てられる。

実はここに、T社の戦略の核心がある。AIに「何を分析するか」を決めさせるのではなく、「どう分析するかの実行」を任せている点だ。問題設定と解釈は人間のコンサルタントが行い、実行の労力はエージェントが引き受ける。「AIに考えさせる」のではなく「AIに作業させ、人間が考える」という役割分担が、T社の生産性向上の源泉だ。

30〜50枚のスライドドラフトが、数時間で上がってくる

コンサルタントにとってもう一つの時間的重荷が、PowerPointのスライド作成だ。分析結果をわかりやすく可視化し、ストーリーとして組み立て、デザインを整える——この作業は創造的でもあるが、量的には重労働でもある。一つの提案書で30〜50枚のスライドを作る必要があり、直前の修正指示で全体を作り直すというケースも珍しくない。

T社のスライド生成エージェントは、分析結果とストーリーラインの指示を受けて、T社のブランドガイドラインに沿ったPowerPointスライドのドラフトを自動生成する。エグゼクティブサマリー・現状分析・課題特定・解決策提案・実行計画・期待効果という典型的なコンサルティングデッキの構成に沿って、グラフや表を含む30〜50枚のスライドドラフトが数時間で完成する。コンサルタントはこのドラフトをベースにメッセージを磨き、ロジックを強化し、クライアントの文化に合わせた表現に調整する。スライド作成工数が70%削減され、「良い提案書を作ること」に使える時間が大幅に増えた。

成果は明確だ。T社全体のプロジェクト納期が平均20%短縮され、同じリソースで対応できるプロジェクト数が増加した。クライアント単価は変えずに売上が拡大し、コンサルタントの残業時間は大幅に改善されている。特に若手コンサルタントから「入社時に期待していた仕事を実際にできている」という声が増えたことは、採用・定着の観点でも大きな意味を持つ。

「AIを使いこなすコンサル」と「AIに使われるコンサル」に二極化が始まった

T社の事例が示す変化は、コンサルタントという職業の本質への問い直しでもある。データ収集・整理・可視化の手作業スキルよりも、「何を問うべきか」という問題設定能力、AIの出力を批判的に検証する思考力、クライアントと深い信頼関係を築くコミュニケーション力——これらが、これからのコンサルタントに求められる中心的な能力だ。

「AIコンサルティングオーケストレーター」という新しい役割では、複数のエージェントを組み合わせてプロジェクトを推進し、人間とAIの協働チームを管理するスキルが求められる。どのデータをどのエージェントで収集・分析するか、エージェントの出力のどこが信頼でき、どこを人間が検証すべきかを判断する能力は、AIリテラシーとコンサルティングの経験の両方がなければ身につかない。コンサルティング業界は、AIを使いこなす人材とAIに使われる人材に二極化しつつある。その分かれ道は、「AIを恐れるか、武器にするか」の一点にある。T社の選択は、答えを出している。

#コンサルティング#提案書作成#データ分析#ナレッジマネジメント

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